WILDSWANSのシザーケース&サロンポーチ

ワイルドスワンズWILDSWANSのシザーケース&サロンポーチ

ミニ財布の火付け役「TONGUE(タング)」や「PALM(パーム)」など、数々のヒットアイテムを生み出し世の革小物好きを魅了してやまない「WILDSWANS(ワイルドスワンズ)」。1998年に3人の兄弟ではじまったこのブランド最大の特徴は、世界中のタンナーから選りすぐった上質な革たちです。月日を重ねるごとに艶が増す革を長く愉しむための丁寧な縫製、そしてシンプルななかに微かな色気を漂わせた飽きのこないデザインは、ビジネスでもカジュアルでも様々なシーンを彩ります。

時間と手間をかける丁寧な手仕事を基本とするWILDSWANSが、細部までこだわる美容師のために“本気の”シザーケースとシザーポーチを作りました。パートナーはファッション業界やビューティ業界で活躍するクリエイティブ集団「BACON(ベーコン)」の松本和也。サロンワークとスタジオワークを自在に行き来するトップクリエイターの感性と、レザー業界のトップクラフトはどのようなケミストリーを生んだのでしょうか。

WILDSWANS 山田 豊(YAMADA YUTAKA)
BACON 松本 和也 (MATSUMOTO KAZUYA)

プロのためにこそ良いものを!

そもそもこのプロジェクトはどのようにはじまったのですか?

松本: もともとサロンで働いていたときからシザーポーチの良いものがないなぁと思っていたんです。好みのデザインが無いだけでなく、品質で納得いくものもない。頑張ってでも手に入れたいと思えるシザーポーチが欲しかったんです。その後、ヘアスタイリストとして独立して様々な現場に出るようになると、はさみを持ち歩くためのシザーケースが必要になり、これも色々と探したけれど本当に良いものが無い。使い勝手も微妙だし、大切なハサミを持ち運ぶのにふさわしいと思えるアイテムが見つからないんです。せっかくファッションや身につけるものにこだわってみても、仕事道具が貧弱ではテンションが上がらない。財布や鞄などのビジネスツールでは綺麗なレザーを使った一流品がたくさんあるんだから、シザーポーチやケースだって憧れを持てるアイテムがあってもいいんじゃないか。そんな話を山田さんとしていたのがきっかけですね。

山田: その話を聞いたとき、プロのための道具なのに良いものが無いというのは意外でした。でもよく調べてみると、確かにデザインの好みはさておき、革の品質でいえば「これは良い!」と思える商品は見当たらなかったんです。財布や名刺入れと同じように、良いレザーを使ったシザーポーチを探している美容師さんがいるなら、レザーブランドとしては挑戦するべき課題ではないかと感じたんです。松本さんのこだわりや情熱を聞いていると我々も勉強になる部分があって、社長に相談したら「絶対数こそ少ないかもしれないけれど、専門の業界に特化したプロユースのレザーアイテムを開発するのはWILDSWANSらしい取り組みだ」という話になりました。その道を究めるクリエイターにこそ、ふさわしい一流のレザーアイテムをお届けしたい。そんな想いで今回の開発はスタートしました。

職人のアイデアこそ、最高の教科書

実際の開発にはどれくらいの時間が必要だったんですか?

松本: 企画自体は2020年のパンデミック直前に立ち上がったと思います。緊急事態宣言が解除されるたびにアトリエにお邪魔したりしながら打ち合わせを進めていきましたよね。僕らは革のことを色々と教えてもらいながら、ボール紙でサンプルを作って渡したり。工場長の坂(さか)さんが、僕らのアイデアや希望を形にしてくれる様子は手品みたいでした。仲間と「そんなこと本当にできるんだ」って、感動したのを覚えています。あと、アトリエまでの道のりとか、周辺ののどかな雰囲気も忘れがたいですね。近くにあるおそば屋さん、美味しかったなぁ(笑)。

山田: 行きましたね(笑)。あれがスタートだから丸3年はかかっているんですね。ストラップの長さや革の厚み、使いやすさと拡張性など、いろんな角度で細かく検証してくれたのを覚えています。紙で作った模型を渡されたとき、工場長も「勉強になるなぁ」と話していました。まさにプロ同士のこだわりが詰まったプロダクトですね。今回の開発はWILDSWANSにとってもユニークなプロジェクトで、オーダーメイドと量産の中間規模の企画なんです。オーダーメイドは徹底的に顧客のニーズを再現する必要があって、当然それだけの技術力が求められます。いっぽう、量産はこだわりすぎると価格が高騰してしまうし、ニーズとのバランスをきちんと考えないと商品にならない。そのプロセスはとても勉強になりました。これからはこういう規模で良い商品を作る姿勢も大切なんじゃないかと思うようになりました。

クリエイターのこだわりは尽きない

実際に仕上がってきた製品を見ていかがですか?こだわりポイントなどを教えてください。

山田: 革の表情が生きた、良い製品ができたなというのが僕の感想です。使っているレザーは世界でもトップクラスのタンナーのものなので、WILDSWANSらしい製品でもあります。使い込むほどに艶の出る厚手のコードバンは「ホーウィン社」のもの。“革のダイヤモンド”という異名にふさわしい輝きと、耐久性の高さが特徴です。ブライドルレザーは英国の「ベイカー社」のフルグレインブライドルを採用しています。馬具を作るための革なので丈夫だし、エイジングは抜群なので革を育てる楽しみはたまらないものがありますね。シボ感が綺麗なシュランケンカーフはドイツの「ペリンガー社」のものです。柔らかな質感でありながらしっかりとしたコシ感と美しい発色が特徴です。そして極めつけはクロコダイル。ギラギラしないように、うちではマット気味の半艶で仕上げているのですが、これがポーチやケースの佇まいによく似合うと思いました。今回使用しているナイルクロコは、もしかしたら今後さまざまな事情で供給量が少なくなってくるかもしれません。最高級の革ですが、実は革のなかでは比較的水にも強いほうで、サロンワークにはとても向いているんです。

松本: 僕もファーストサンプルからテンション上がりましたね。BACONの仲間と「おぉ、よくぞ作ってくれたな」と、しばらくニヤついて眺めていました。機能性についてこだわったポイントは、サロンワーク、スタジオワークのどちらでも対応できる拡張性。せっかく良い革なので、さまざまなアーティストに長く使ってもらえる機能性を追求しました。例えばポーチは右利きでも左利きでも使いやすい用にシザーを入れるパーツをそれぞれ用意しています。これは坂さんのアイデアで、さすがの使い勝手だなと感心しました。また、ハサミが多い人、コームやバリカンを入れる人など、自分のスタイルに合わせて柔軟に使い分けていただけます。ハサミの長さに合わせて調整できるストラップも、使わないときはダッカールやゴム手袋を留めるストラップになります。きちんと蓋のできるポーチって意外と少ないので重宝しています。ケースの中に髪の毛が溜まっても底のフラップを空ければサッと掃除できるし、ともかく僕らの要望や不満をうまく解決してくれました。ケースもハサミが抜けにくい構造で安心だし、コームや名刺も仕舞えて実にスマート。カットのスキルやスタイルがキャリアとともに変化しても、ずっと付き合えるアイテムだと思います。現場でも他のスタイリストに自慢できる仕上がりになりました。

「いつかは」という憧れを

たしかにこんなケースから仕事道具を出したら「おぉ」ってなりそうですね。

松本: 現場は良い意味で緊張感があるので、こういうアイテムが意外と会話のきっかけになったりするんですよね。道具にこれだけこだわっていれば、仕事にも期待してもらえるという効果もあります。ハサミとか時計、洋服や鞄なんかは先輩が持っているものに憧れたりしていたんですが、シザーケースとかはもうみんな諦めちゃっている感じもあったのでやっと欲しいと思えるものに出会えた気がします。美容師やヘアメイクって限りなくファッションに近い職業なんですが、身の回りのアイテムは意外と業務用しかない世界なので、こういうプロダクトがあると励みになりますよ。ハイブランドを手にしたときのワクワク感やちょっと背筋の伸びる緊張感に似ています。

山田: そう言ってもらえると嬉しいですね。最近お店で接客していると、「良いものを長く使いたい」といって相談に来るお客様が増えました。20代とかの比較的若いお客様でも自分にとって良いものを真剣に探している印象を受けるんです。ブランドだけでなく、自分が良いと思ったものにお金を使う傾向が強いというか。アフターメンテナンスなどをしっかりやっているという理由でWILDSWANSの財布を使ってくれるお客様も多いんです。もちろん今回作った製品も、銀座の直営店「WILDSWANS Support & Gallery」に持ってきてもらえばしっかりメンテナンスさせてもらいます。10年、20年と手入れしながら使い込んだら相当かっこ良くなるでしょうね!

松本: 自分のキャリアとともに成長できるアイテムですね。一本用のシザーケースやストラップも欲しいなと思っているんですが、作ってもらえますか?

山田: 良いですね!ガルーシャやカーフ、サドルレザーなど、他にもおすすめの革があるのでまたアトリエに遊びに来てください。

プロフィール

<WILDSWANS/山田 豊>
レザークラフトはもとより、革そのものにも造詣が深く、海外のタンナーを訪れるほど。WILDSWANSの仕入れ全般を担当し、エクスクルーシブな企画や新製品の開発なども手掛ける。もともとは音楽業界で働いていた経験もあり、趣味はレコード収集。最近は園芸にもハマっている。

<BACON/松本 和也>
2002年に日本でのサロンワークを経て渡英。ロンドンにてフリーランスとして様々な広告やエディトリアルの仕事を手掛け、2008年に帰国。現在は雑誌やメディアの仕事を中心に、セッションワークで活躍中。普段はファッション業界やビューティ業界で活躍するクリエイターたちによるユニット「BACON(ベーコン)」を立ちあげ、今後の展開が期待される。