革を長くもつためのHOW TO

ハウツーキープ革を長くもつためのHOW TO

大事にしていても、うっかりしていると付いてしまう水ジミやカビ。 そんな革のトラブルについて、革のクリーニングの専門家に、 対処法と革製品を洗濯するってどういうことなのかを聞いてみた。

2008年発行 「日本の革 1号」より

Q. 革はカビが生えやすい?

繊維質に適度な水分、脂分を含む革は、カビの繁殖に絶好の条件。うっかりすると簡単にカビが生えてしまう。特に厄介なのは革の組織の中に入り込んだカビで、こうなるとあきらめるしかない。革製品は常に通気性のある場所に置くこと。また一度カビの生えた靴箱は再利用してはいけない。

カビが表面に付いているだけなら、ぬらして固く絞った布でふき取り、陰干しすることである程度取り除くことができる。

Q. 革は雨に弱い?

本来、革は繊維質のために非常に水を含みやすい。染色方法や仕上げ方法によっては水に強い革もあるが、基本的には水に対して弱いものと考えていい。水分を含むと革の組織が変化するため、それが跡になってしまう。そこに熱が加わると、硬く縮んでしまうことさえある。そのため、革に水滴が付いてしまったらすぐに叩くようにして拭き取るようにしたい。

アイロンで実験!

水分を含んだ革は熱に弱くなっている。アイロンなどで急に乾かそうとすると、縮んで硬くなってしまうので注意

Q. 水ジミやカビの跡は元に戻る?

使っているうちにどうしても付いてしまう汚れや水ジミ。そして気が付かないうちに生えてしまったカビ。これらは皮革専門のクリーニング業者に依頼すればリフレッシュすることができる。業者は特殊な洗剤を使って洗い、丁寧に乾燥させてリペアしている。家庭で同じように洗うのはなかなか難しいため、革製品の洗濯は業者に任せたほうが賢明だ。

写真は靴のクリーニング手順。洗剤に浸ける前に、底にこびりついた汚れを硬いブラシでこすって浮かせておく。

水溶性の特殊洗剤で洗う。洗剤槽に漬けた靴にジェット噴流を当てて汚れを落とす。合計5回洗剤液を変えて洗う。

オゾン水ですすいだ後、24時間以上風を当てて自然乾燥する。専用のキーパーを入れて型崩れを防いでいる。

色落ちしたり水ジミができたりした部分は、元の色に合わせて調色した顔料で色をつける。

調色した顔料をスプレーガンを使って 吹き付ける。オリジナルの色を再現し て自然に塗装するのは職人技。

クリーニングをする前(右)とした後(左)。汚れが落ちているだけでなく、日焼けによる退色や水ジミによって色が変わった部分は、色づけによってほとんど目立たなく自然な仕上がりとなっている。

Q. 革をきちんと保管するには?

靴、鞄、そして衣料と革製品に共通している保管の大原則は、なるべく風通しのいいところに置いておくことだ。また、日本の高温多湿の気候は革にとって悪条件であるため、できれば気温、湿度とも低い環境にあることがベスト。もしクローゼットや押入れに収納するなら、空気が滞らない真ん中に入れ、月に一度は取り出して陰干しするといい。

革製品は高温多湿を避け、通気性を確保しておくことが保管の基本。東京ホールセールではクリーニング代に500円プラスすれば、春〜秋シーズンの間、気温10=15度、湿度55%の保管庫でコートやブーツを預かってくれるサービスを行っている。

Q. 革は伸びやすい?

革の伸びは、動物の種類・年齢・性別・部位や取る方向によって大きく違う。一般的に、腹は背中より伸びやすく、また、同じ背中なら背筋(背線)方向よりもそれに直交する向きの方がよく伸びる。そこで革製品はその製品に最適な位置や方向を考慮して型入れをしている。とはいえ、無理な状態で保管すると伸びることがあるので注意が必要だ。

【引張強さ及び伸び】革片を人工的に引張る実験を行ってみた。試験片は豚革から部位と方向を変えて採取し、比較してみたが、いずれも大きな力で引張ると最終的に切れてしまった。部位では背よりも柔らかい腹、同じ背なら背筋方向よりも垂直方向の試験片の方が長く伸びてから切れるという結果を見せた。

Q. 革は熱に強い?

革は耐熱温度以上の熱が入ると、硬化や変形する性質を持っていて、一度変形すると元には戻らない。この変形をしない耐熱温度は乾燥状態で120℃程度といわれる。しかしこれは革が含む水分によって大きく変わり、水にぬれるとこの温度が下がる。なめし方法にもよるが60〜100℃程度で急激に縮んでしまう。

【アイロン試験】試験片に左から120℃、160℃、240℃のコテを当ててこすったもの。温度が高くなるとコテがあたった部分が波打つようになった。この部分は周囲の部分に比べて革が伸びて硬化してしまったため、波打つように変形した。こうなると元には戻らない。

Q. 革は色落ちする?

革を着色する方法には、水浴で染色する方法、スプレーやハケで塗装する方法、プリントする方法などがある。色落ちの度合いは染料の種類や仕上げによって異なるが、傾向としては、表面処理がない素上げ革や起毛革、革らしさを活かした仕上げの革が摩擦などによって色落ちしやすい。また、水にぬれると色落ちはより激しくなることが多いので注意したい。

【染色摩擦堅ろう度】摩擦子に木綿の白布をかぶせ、革の試験片表面を摩擦する。白布は乾いた状態、蒸留水に浸したもの、酸性人工汗液、アルカリ性人工汗液に浸したものを用意。顔料で仕上げた革はあまり色落ちしなかったが、素上げ革は汗で色落ちした。

Q. 革は太陽光でダメージを受ける?

どんな物質も太陽光で劣化するが、革は特に色に変化が現れる。それはなめし方や着色方法、染料やその濃度によっても違ってくる。一般的にクロムなめしに比べてタンニンなめしの方が変化しやすく、褐色に変わる傾向にある。また着色料では、顔料よりも染料のほうが、色が変わりやすい。なかでも淡色の革はその退色の度合いが大きく目立ちやすい。

【耐光試験】太陽光にさらした状態を促進して試験できる耐光性試験機に革片を入れてテスト。一定の条件で光りを当てた結果が右の写真。白系のものは黄色っぽく変色した。一方、濃色の黒はあまり変化が見られなかった

Q. 革はやっぱり水に弱い?

革は水にぬれると水がしみこんでしまい、乾くとそこがシミになったり、水ぶくれのように表面が凸凹になってしまったりすることがある。そのため表面にラッカーやウレタンで仕上げることで、水分をしみこみにくくしているものもある。こうした保護膜がない素上げ革や起毛革などはなるべくぬらさないようにし、水にぬれたらすぐに叩くように水を拭き取ることを心がけたい

【水滴試験】試験片に水滴を垂らして30分後と16時間後に拭き取ったときの表面の状態を観察。茶色い革片は16時間後のものでも跡がみられない。一方黒い革片はもともと色が濃いため色の変化はほとんど見られないが、16時間後には水ぶくれのようなウォータースポットがはっきりと現れた。この違いは、革の表面加工などが関係している。